7.三人の残念 Mr.Tは、上半身裸になった。 筋骨隆々…とは言えない。正しく表現するならば、贅肉隆々、あるいは贅肉たぷたぷ…だろうか? 相馬たかしは、あきれてその裸を見ている。 「さあ、きみも脱ぐんだ」 「な、なんで俺が?」 「いいから…」 とMr.Tは迫る。 「ま、待ってくれ…、よせ…!」 相馬は後ずさり。 しかし、せまい部屋の中だ。すぐに背中が、後ろの壁にドンとあたってしまう。 「う……」 もはや逃げ場がない。 相馬は、上目づかいに、Mr.Tの顔を見上げた。 Mr.Tは、手のひらに、とろ〜りとオイルを垂らし、変態的な笑顔(つまり、いつものように)で、にやりと笑った。 そして、猫なで声で囁く。 「怖がらなくていい。最初は誰だって、恥ずかしいものだ」 相馬は、 (…ごくり) と、唾を飲んだ。 …すると、Mr.Tは、たっぷりのオイルを、やおら自分の体にこすりつけはじめたのだ。 「…ああ、…おぅ。……ううん…」 恍惚とした表情。やがて彼は、テカテカに光りはじめた体を誇示し、両腕をぐいと上にあげて、ポーズを決めた。 「ダブルバイセップス・フロント!」 さらに、横向きになって両手を腰のあたりで組み、片足をくいと曲げ、 「サイドチェスト!」 「…………?」 相馬たかしは、ポカ〜ン…とそれを眺めた。 「……お、お前、何をやってるんだ?」 「決まってるじゃないか。ボディビルだ」 「ボディ・ビル?」 「そう。コナキンズと一緒にボディ・ビルをやろうと思って、順番に声をかけていたんだ」 つまり、 Bodybuilding Love(BL)…なのであった。 「なんだよ。BLでさんざんひっぱっといて、こんなオチかよっ!」 相馬たかしは、吐き捨てるように、 「…残念だ」 とうなだれた。 すると、Mr.Tも、 「いや…。実は、私も残念なんだ」 顔を赤らめ、 「番組でのボディビル企画が、もうちょっと盛り上がるかと思ってたんだが…」 とうなだれた。 さらに、 「そう。私も残念だ」 この話の作者も、 「ボディビルコーナーが盛り上がると踏んで、いろいろあちこちにBLの伏線を張っておいたんだけど…」 とうなだれた。 三者三様、それそれの残念を抱え、うなだれたのであった。 (完)……かと思ったら、実は次回もう一段オチが? おなじみ藤井青銅の公私混同コーナー! 続々登場してますよ! 藤井青銅の電子書籍。 最新作「これはきみが、失くした話」 http://itunes.apple.com/app/korehakimiga-shikushita-hua/id541481727?mt=8 大好評の前作「これはみんな、きみの話」の第二弾! ちょっと切ないショートストーリーと美しい写真と、オリジナル音楽が入って、 リリース特価、85円! 「笑う20世紀」シリーズは、全三冊! http://adrenalize.co.jp/seido.htm 「アキバの休日」もあるよ。 http://itunes.apple.com/jp/app/akibano-xiu-ri/id515835717?mt=8 |