オードリーの「帰ってきた天沼パトロール

 
2.意外な人物

ーキミと二人だけで会いたい…。
という電話に、底辺は阿佐ヶ谷に向かった。
深夜である。すでに公共交通機関は止まっている。
底辺は、愛用の原付バイク・ハシルーノ号(シートがトイレの便座に改造されていた)にまたがって、
「こんな夜中に呼び出しがあるんだ。なにか緊急事態に違いない!」
と急いだ。
(…けど、緊急事態にしては、言ってることがちょっと変だったな)
バイクを走らせながら、底辺はふと思い出した。
 × × ×
突然電話をかけてきた伝説の音楽プロデューサー・Mr.Tは、
ーところでキミは、今日、風呂に入ったか?
と聞いてきたのだ。
「風呂?」
ーいや、ウチには風呂がないもんでな。
「風呂なら入りましたが、それが何か?」
ーならいいんだ。それはつまり、下着もはきかえたということだろ?
「…え、ええ。それが何か?」
ーならいいんだ。その方が恥ずかしくないだろうと思ってな。
「恥ずかしいって?」
ーいや、気にしないでいい。ま、とにかく、2時きっかりに、来てくれ。
「…はぁ」
 × × ×
(あれは、どういう意味だったんだろう…?)
ほどなくして、バイクは阿佐ヶ谷に着いた。
目の前に、38階建てのインテリジェント高層ビル「MUTUMIビル」が、デーンとそびえ立っている。
伝説の音楽プロデューサー・Mr.Tの自宅兼オフィスは、この建物の最上階にあるのだ。
底辺はヘルメットをとった。その前部には、さながら戦国武将の兜のように、馬蹄型の便座が貼り付けられている。
巨大なクワガタムシみたいだ(こういうのは道交法違反にならないのだろうか?)。
底辺は腕時計を見た。
「ありゃ、ちょっと早く着いてしまったか」
急いだので、指定された時間の10分前に着いてしまったのだ。このまま訪問してしまうか、
それとも少し時間をつぶすべきか…と考えていると、目の前のビルから一人の男が出てきた。
「あっ!」
底辺は反射的に、電柱の陰に身を隠した。
そのビルから出てきたのは、同じくコナキンズの仲間・子泣きジジイだったのだ。
そのスキンヘッドが、月明かりに妙にてらてらと光っている。
子泣きジジイは、コソコソとあたりを見回した。その動きで体のどこかに痛みを覚えたようで、
「うっ!」と苦痛に顔をゆがめる。彼は腰のあたりをおさえ、何かを思い出して、ぽっと顔を赤らめた。
そして、妙に内股で歩きながら去っていったのだ。

電柱の陰からそれを見ていた底辺は、
「?????」
と首をかしげた。そして、ビルの上を見上げた。


子泣きジジイの「痛み」の原因は何か?
なぜ彼は、内股で歩いて行ったのか?
底辺の運命やいかに!?
(続く)


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箱根コナキンズ物語・BL編