8.直前 東京・阿佐ヶ谷。 38階建てのインテリジェント高層ビル「MUTUMIビル」の前に、五人の男たちが立っていた。 「うひゃ〜、でっかいビル!」 「くそう。出入りしてる連中は、みんな金持ちなんだろうな」 箱根コナキンズの四人は建物を見上げ、悪態をついた。 金持ちに対しては、条件反射的に卑屈になるのだ。 「私の自宅兼オフィスは、このビルの最上階にある」 と伝説の音楽プロデューサー・Tは自慢げに言った。 全員で高速エレベーターに乗って、屋上に出た。 「屋上?」 「いわゆるペントハウスってやつか?」 しかしそこには、ビンボー臭い木造アパートが建っていたのだ。 屋上をゴウゴウと吹く北風に、アパート全体がぶるぶる震えている。 「苦労時代を忘れないよう、あえて屋上にこういうアパートを置いたのだよ」 とTは言った。 中に入ると、そこは狭いながらも、最先端のレコーディングスタジオに改造されていた。 まったく、金持ちなのかビンボーなのか意味不明な男である。 箱根コナキンズはそのままブースの中に入り、デビュー曲《So much take a shit》のリハーサルを始めた。 ガラス越しのミキシング卓の前には、エコーの天才・オオサワが座っている。 大きなスピーカーから、ブース内の歌声が流れてくる。 ♪俺たちの、は〜こね はこねにやってきた〜♪ というしゃがれ声を聞きつつ、彼は、 「こいつら、なかなかいい音楽センスしてますね」 と感想を述べた。 「そうだろう?」 ふかふかのソファーに腰掛け、片手に白ワインの入ったグラスを持ったTは満足げにうなづく。 そこへ、タンクトップにホットパンツ姿の美女が入ってきて、横に座った。 「うふん またダーリンが新しい才能を見つけてきたのね」 「やあ、ヘザー。愛してるよ」 と彼は美女の金髪をなでた。 「かつて私が若い頃、ARBという伝説のバンドがいた」 「ARB?」 「そう。ARAKAWA RAP BROTHERSというバンドだ。あのサウンドに衝撃を受け、 私は音楽プロデューサーの道に進んだのだ。こいつらには、その時と同じ匂いを感じるんだよ」 と伝説のプロデューサーは遠くを見る目をした…。 * そして、25日・土曜。 箱根コナキンズは、有楽町のニッポン放送にやってきた。 これから「オードリーのオールナイトニッポン」にゲスト出演するのだ。 だがしかし、誰にも言ってなかったが、実は相馬たかしには、 (よし。全国放送でアレを…) とヒソカに決意していることがあったのだ。 はたして、相馬たかしの決意とは何か? 謎が謎を呼ぶ展開! 25日深夜のオールナイトニッポンを聞こう! (続く) 青銅先生に励ましのお便りを出そう! https://twitter.com/#!/saysaydodo 青銅先生の本(電子書籍を含む)を買おう! http://www.asahi-net.or.jp/~MV5S-FJI/ |