7.番宣 ひゅん、ひゅん、ひゅん… 底辺が投げた大きなアクセサリーは弧を描いて飛んだ。 柱の陰でそれを「はっし!」と受け止めたのは、 身長2メートルで、妙に胸を張った男だった。 「お、お前は誰だ?」 「ふふふ…。私は伝説の音楽プロデューサー・Mr.Tだ」 自分で自分のことを「伝説」と名乗る人物も珍しい。 「君たちの音楽にはパッションがある。それでいてエモ―ショナルで、ダンサブルで、なおかつメロディアスで、 あまつさえグランジで、パンクで、アンビエントで……」 (こいつ、自分の言ってることがわかってるんだろうか?) と相馬たかしは思った。 「私が君たちを売り出してやろう」 「ホ、ホントですか!」 長〜い下積みのカス期生活が続いていた子泣きジジイ、サギ師、底辺の三人が色めき立つ。 「この私にまかせておきたまえ!」 と伝説のプロデューサーは自分の胸を、力強くドン!と叩いた。 「コホッ、コホッ……」 昭和の浅草喜劇みたいな男である。 「売れるためには、バンド名が大切だ。今のザ・ナイスミドルズじゃ、全然話にならん」 たしかに、ボーカルに相馬たかしが加わったのだから、バンド名を変える必要があった。 「そうだな…」 とTは、最年長・子泣きジジイの顔をじっと見て、言った。 「箱根コナキンズ、というのはどうだ?」 伝説のミクスチャ―バンド・箱根コナキンズ誕生の瞬間であった! 「質問がある」 相馬たかしが一歩前に出て聞いた。 「いったいどんな方法で俺たちを売り出そうというんだ?」 「今度、お前たちをオールナイトニッポンのゲストに出してやろう」 「ええっ、あの有名なオールナイトニッポンの!?」 全員が驚いた。中には気が早く、そのテーマ曲であるビタースウィート・サンバを口ずさんでいる者もいる。 「そうだ。私の顔で、ゲストに出せる」 と彼は自慢げに言う。 「土曜日はオードリーというお笑いコンビが担当してるんだが、知ってるかな?」 「さあ……」 全員が首を横に振った。 「…ま、まあ、いい。とにかく、やっているんだ。そこへ出してやろう。25日・土曜深夜1時からの生放送だ」 全員が驚いて、叫んだ。 「こ、この小説は…長い長い番宣だったのかっ!?」 (続く) 青銅先生に励ましのお便りを出そう! https://twitter.com/#!/saysaydodo ついでに、26日夜7時半からの「松任谷由実ミュージックアルバム 〜メールではじまる物語〜」も聞こう。 貫地谷しほりさんがパーソナリティーだよ。 青銅先生の本(電子書籍を含む)を買おう! http://www.asahi-net.or.jp/~MV5S-FJI/ |