5.参加 『箱根キサラ』のステージで、子泣きジジイ、サギ師、底辺の『ザ・ナイスミドルズ』がライブを行った。 披露された曲のタイトルは、「苦節十八年」「なりたいなブルース」「ウォシュレット・ラブ」。 三曲とも、リズム、ハーモニー、メロディー…どれをとっても日本の音楽史を塗り替えるほどにひどい曲だった。 ライブハウスの客は怒り、ブーイングの嵐。持っていたビールの紙コップや、ハンバーガー、アイスなどをステージに投げつけた。 * 楽屋に戻ってきた三人は、客の投げたさまざまなものを全身に浴び、どろどろになっていた。 子泣きジジイは、そのスキンヘッドにべったり張りついたアイスを、舌だけを使って舐め、「今日はバニラ味だ」とつぶやく。 …この連中、いつもこんなメにあっているのだろう。 ところが、相馬たかしは、 「素晴らしい演奏だった!」 と拍手で迎えたのだった。 「え? どういうこと?」 底辺が聞き返す(彼の眼鏡には、ハンバーガーのピクルスが張りついていた)。 「素晴らしい、と言ったのだ」 「そんなことを言ったのは、あんたが初めてだ」 とサギ師は驚く(彼のアフロヘアには、焼き鳥の串が二本刺さっていた)。 「なあに、真に新しいものは、最初は大衆に理解されないのだ」 「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」 「だが、君たちには一つ、足りないものがある」 「それは何だ?」 「……魅力的なボーカルだ」 相馬たかしは、自信を持って宣言した。 「私が、それをつとめよう」 * かくして、相馬たかしをボーカルに加え、4人は再びステージに上がった。 今度演奏されたのは、これまでのリズム、ハーモニー、メロディーのひどさに加え、 さらに音痴なボーカルという致命傷まで抱え込んだ、とんでもないものだった。 ところが、さっきと違って客は騒がない。 (ほらな、あまりに素晴らしい歌声に、みんな聞き入ってるんだ) と相馬は思った。 実は、客はもはや怒る気力を失い、ぐったりとその場に倒れ込んでいたのだったが…。 演奏が終わると同時に、静まり返った客席の後方から、野太い声が響いた。 「ふふふ…。しかと、聞かせてもらったよ」 柱の陰に、巨大な人影が動く。 「誰だっ!」 叫んだ底辺は、その首にかけていた便座のようなアクセサリーをはずして、投げた。 ひゅん、ひゅん、ひゅん…… それはブーメランのように、弧を描いて飛んでいく。 ひゅん、ひゅん、ひゅん、ひゅん、ひゅん、ひゅん、ひゅん…… (さらに続く) 青銅先生に励ましのお便りを出そう! https://twitter.com/#!/saysaydodo (注・本人傷つきやすいので、悪口は書かないように) 青銅先生の本(電子書籍を含む)をもっと買おう! http://www.asahi-net.or.jp/~MV5S-FJI/ |