4.美女 相馬たかしの目の前に伸びた白い脚が、ゆっくり下ろされた。 深くスリットの入った深紅のチャイナ・ドレス。 スリムな体型だが、胸だけは大きい。 この謎の美女に、相馬は尋ねた。 「君も、このライブハウスに出るアーチストか?」 「いいえ」 「じゃ、スタッフ?」 「いいえ」 「じゃ、誰なんだ?」 「ただの通りすがりよ」 「ちょっと待ってくれ! 前回、いかにもイミありげに登場しておいて、ただの通りすがり?」 「そうよ」 「そんなのアリなのか?」 「だってね、あなたたちが悪いのよ」 美女は、相馬の耳に口を近づけ、囁いた。ほんのりとジャスミンの甘い香りがする。 「この小説、ここまでの所ずっと男しか出てきてないでしょ? しかも、パッとしない男ばっかり」 相馬は振り返る。後ろには、子泣きジジイとサギ師と底辺が、ぼーっと突っ立ていた。たしかに、 もし今『パッとしない男選手権』を開けば、金銀銅を独占しそうだ。 「このままじゃあまりに色気がないから、『引っ張り用』にあたしが使われたのよ」 「それだけの理由で?」 「そ」 「そんないーかげんな展開、読者が許さないだろ!」 「いいのよ。読者なんてどーせ、ヒマつぶしに読んでるだけなんだから」 「そ、そうだったのか? ガ〜ン! ガ〜ン! ガ〜ン! ガ〜ン!」(大沢エコー) 美女はちょっとだけ寂しそうな目をして、 「あたしなんて、しょせん名もない、ただの使い捨てキャラなのよ」 と、そのまま楽屋を横切って出ていった。 「……………」 あまりに行きあたりばったりの展開に相馬たかしは呆然とし、その死んだ魚のような目が、 冷凍された魚のような目になった。 しかし、やがて気を取り直し、 「で、えーと…、この話、どこまで進んでたんだっけ?」 トリオ・ザ・パッとしない男たちが答える。 「たしか、俺たちが『ザ・ナイスミドルズ』っていうバンドを組んでるって話を…」 「ああ、そうだった」 「これから出番なんだ。俺たちの演奏を見てくれ」 と三人は、ステージに出て行く。 やがて、その驚くべき演奏が始まった…。 (さらに続く) 青銅先生に励ましのお便りをもっと出そう! https://twitter.com/#!/saysaydodo 青銅先生の本(電子書籍を含む)をもっと買おう! http://www.asahi-net.or.jp/~MV5S-FJI/ |