オードリーの「帰ってきた天沼パトロール

 
2.名前

「俺たちの、どこが面白いんだよォ?」
と三人は食ってかかる。
脅されても、相馬たかしはまるで動じない。
彼は死んだ魚のような無表情な目のまま、ポツリとつぶやいた。
「子泣きジジイ…」
「へ?」
スキンヘッドの男は、何のことを言ってるのかわからず、周囲をキョロキョロ。
しかし、ふと気がついて、自分を指さした。
「…お、俺のことか?」
相馬はうなづく。そして続けてつぶやいた。
「サギ師」
「は?」
今度はアフロヘアの男が、恐る恐る自分を指差す。
相馬たかしは再びうなづいた。そして、
「…底辺」
子泣きジジイとサギ師は、一も二もなく、もう一人の男を指差した。
首からトイレの便座のようなアクセサリーを下げたその男は、
「て、照れるなァ…」
 とニヤついた。意味がわかっていないようだった。
「私はオックスフォードで認知言語学を学んできた」
 と相馬は言った。
「に、にんち…???」
「つまり、認知言語学とは……」
と、その学問の沿革、概要、総論、各国事情などを語り始める。
「ゲシュタルト的な知覚、視点の投影・移動、カテゴリー化などの人間が持つ一般的な………



(以下47分間略 ※詳しくはWikiを参照)



………というわけだ。わかるかな?」
冬の箱根の路上で、延々わけのわからない話を聞かされ、
三人はブルブル震えながら、とりあえずうなづいた(うなづくしかないではないか)。
「ニックネームは私の研究テーマなのだ。目の前に、
こんなにもニックネームの浮かびやすい人間が現れたので、面白いと思ったんだ」
「はァ…」
「で、君たちは、どういうグループなんだ?」
「俺たち、バンドやってんだ」
「バンド!?」
相馬たかしの(死んだ魚のような)目が、キラリと光った。

(続く)


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