10.直後 午前3時すぎ。 有楽町・ニッポン放送を出てきた四人の男たちがいた。 二月の深夜は凍てつくほど寒い。それにも増して寒々とした印象を与えるのは、 四人がひとしく肩を落とし、うつむいていたからだった。 「あんなことになるとはな…」 サギ師が、落胆して言った。その巨大なアフロヘアが、この日は一回り小さく見えた。 「しょうがない」 と子泣きジジイ。 「お前が、歌詞を間違えるからだ」 さっき生放送でゲスト出演した「オードリーのオールナイトニッポン」で、箱根コナキンズは新曲を発表した。 と同時に、その新曲の歌詞の中で解散宣言するという、前代未聞の行動に出たのだ。 理由は、 〈サギ師が歌詞を間違えたから〉 …ということになっていた。しかし実は、それ以前に、相馬たかしが密かに心に思っていたことだった。 しかし他のメンバーは、それを知らない。ゆえに、みんな、なんとなくわだかまりを感じているのだった。 もっとも、一人、底辺だけは、 「で、でも、ニッポン放送のトイレはきれいだったよ」 と、なぜか嬉しそう。 「知ってる? 四階から七階までは左が女子トイレ、右が男子トイレだけど、九階だけ男女の位置が逆になってるんだよ。 あれ、どういう意味があるんだろうね? うふふ」 と、どーでもいい知識に嬉しそうですらあった。 気のせいか、いつも胸にさげている便座型のアクセサリーが、さっきと変っている。 ひょっとしたら、ニッポン放送のトイレから拝借してきたのかもしれなかった。 (これでいい。これでいいいんだ) と相馬たかしは心の中で繰り返した。 (このままトントン拍子に売れてしまったら、こいつらは勘違いをしてしまう。ここはグッと我慢して、雌伏の時を経験した方がいいのだ) しかし、その思いは三人には伝わらない。相馬は、他のメンバーからの冷たい視線を浴びることになっていた。 「これで終わりだ」 「じゃあな」 「アバヨ」 「もう会うこともないだろう」 …と、四人の男たちは、それぞれの方向に去っていった。 寒々とした三日月が、それをかすかに照らしていた。 (シーズン1終了) 近日公開 シーズン2「箱根コナキンズ・BL編」をお楽しみに! 青銅先生に励ましのお便りを出そう! https://twitter.com/#!/saysaydodo 青銅先生の本(電子書籍を含む)を買おう! http://www.asahi-net.or.jp/~MV5S-FJI/ |